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CSCNTを充填した純シリコン負極材料を開発

2023年1月31日

ORLIB株式会社

株式会社GSIクレオス


1.概要

ORLIB株式会社(東京都文京区、代表取締役社長:佐藤正春、以下ORLIB)と株式会社GSIクレオス(東京都港区、代表取締役 社長執行役員:吉永直明、以下GSIクレオス)は、GSIクレオスの独自開発品であるカップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)を純シリコン負極へ充填したリチウムイオン二次電池(LIB)の開発に成功しました。これまで純シリコン負極LIBは負極材料の理想形とされながらも技術的課題が多く、実用化には至っておりませんでした。

この度の成果により、次世代の大容量LIB実現に大きく近づきました。


2.背景

スマートフォン、モバイル電子機器、電気自動車(EV)等の市場急拡大に伴い、これらに用いられる電池は、従来以上の高性能が要求されています。こうした要求に応えるため、様々な二次電池が開発されていますが、中でもリチウムイオン二次電池(LIB、注1)は、エネルギー密度が大きく、現在最も広く普及している二次電池です。

現在、このLIBの標準負極材料として使用されるグラファイト(黒鉛)は、比容量が370mAh/gに留まり、今後ますます進化が進む電子デバイスに必要されるエネルギー密度を満たせないことが明らかなため、世界中の研究者は長年にわたり、高エネルギー密度化、高出力化を目指して、正・負極材料探索とシステム改良に取り組んできました。

その中で、シリコン(Si)は理想的な負極材料として古くから知られ、鋭意研究が進められています。

その理由は以下となります。

(1)既知の材料の中で最も高い負極容量4,200mAh/gを有すること (図1)

(2)低い作動電位0.4V vs.Li/Li+を示すこと

(3)Si元素は天然に豊富に存在し低コストで、元素戦略の観点からも利点が大きい



図1.各種負極材料の容量比較


一方、Si負極の実現には大きな課題があります。

(ア)Si粒子へLiイオンが出入り(挿入脱離)することに伴う、Si結晶の大きな体積変化

その変化は最大4倍にもなり粒子の崩壊が進むことで、Si材料の負極機能不全が進むこと

(イ)Si表面上で進行する電解液の還元分解等の副反応に伴う、不可逆的な容量減少、

及び充放電効率の低下が引き起こされること

(ウ)上記(ア)と(イ)の共存により、表層の固体電解質界面(SEI:Solid Electrolyte Interphase)

の生成と崩壊を繰り返すことで、Si粒子の微粉化、孤立化が進行し、更なる充放電効率の低下を招くこと


これらの課題解決のために、近年Siとグラファイトの複合化材料等が提案されていますが、負極容量が1000mAh/gを超える材料では上記課題を完全に克服することができず、実用化は進んでいませんでした。


3.成果の要点

ORLIBとGSIクレオスは、純シリコンを負極に用い、革新的性能を有する大容量LIBを開発しました。

ORLIBは、CSCNT(注2)の極めて特異的な結晶構造に由来する外部応力に対する変形自由度、分散剤フリーでの高分散性、及び従来CNTに比べ大きい中空孔サイズに着目し、Si負極へCSCNTを添加した上でORLIB独自の加圧電解Liプレドープ技術を適用しました。

GSIクレオスは独自の「CSCNT線長調整」技術を用いて繊維長を最適化した上で、分散剤フリー「CSCNT超高分散液」をORLIBに提供しました。

双方の優れた技術の融合により、Si負極内の電子伝導とイオン電導パスの最適化によるプレドープ時間の短縮、及び、高容量と高寿命が両立したLIBが開発されました。


従来LIB電池と同重量の開発電池の充放電曲線を示します。(図2)

従来電池と同重量の純Si負極電池を製作し、放電曲線で電圧が急落するまでの容量(Capacity)を測定しました。例えば2.8 Vまで使う場合、従来の電池が1Ahまでに対し、開発した電池では約2倍の1.8 Ahとなります。セル自体のエネルギー密度は従来品が158 Wh/kgであるのに対し、開発品は280 Wh/㎏でした。

また、本電池を搭載したマイクロドローンで従来電池より飛行時間が60%向上することが実証されています。(図3)


またCSCNT添加電極は、標準的な導電補助剤として知られる多層CNT(MWCNT)やグラフェンと比較しても、極めて良好なサイクル性能を示しました。

開発した電池は充放電を繰り返しても劣化が少なく、充放電100サイクル後での放電容量は90%以上、充放電効率も99.7%以上を維持することを確認しています。(図4,図5)この充放電効率はグラファイトに匹敵する水準となります。

なお、長期サイクル特性よりも電池の高エネルギー密度を優先する用途、例えばインフラ検査用ドローンであれば、100サイクル程度でも市場の要求を満たすことは可能です。


4.本成果による市場へのインパクト

Si負極実現と大容量LIBの開発により小型、中型ドローンの飛行時間を大幅に伸ばすことが期待できます。これら小型、中型ドローンは山間部やへき地などに設置された電気機器、またインフラの点検、検査用途として市場が拡大していますが、年々ドローンに搭載するカメラや各装置の大型化により重量が増大しており、本開発が目指す、より高エネルギー密度で軽量なLIBが求められています。更にLIBの大型化により、大型ドローンを含めた様々な高速移動体、デバイスの実用化が視野に入ることになります。


5.今後の展開

ORLIBとGSIクレオスは、純Si負極実用化にメドがついたことから、既に次世代の高容量有機正極材料の開発に取り組んでおります。容量密度の大きなSiに最適な正極材料が開発できれば、高性能化が進む小型~大型ドローンや高速移動体に対し、革新的な軽量・高エネルギー密度のLIB提供が可能となります。

両社は双方の先鋭的技術を基に協業・協働し、社会からの高次のエネルギー要求に応える革新的なエネルギーデバイスの研究開発に努めてまいります。

なお本発表は研究成果の発表であり、両社の業績に与える影響はありません。


注1. リチウムイオン二次電池(LIB)

正極と負極間をリチウムイオンが移動することで、充電、放電を行う蓄電池。


注2. カップ積層型カーボンナノチューブ(CSCNT)

学術的には「切頭円錐形炭素網積層構造炭素繊維」(右図参照)と呼ばれ、CNTの一種として分類されており、GSIクレオスが独自に展開するカーボンナノチューブ。

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